研究概要 |
本研究の目的は,幼児期の子どもを対象に仲間同士のトラブルや意見の食い違いによって生じる様々な葛藤(認知的,情動的,社会・文化的)に焦点を当て,子ども一人ひとりがそれらの葛藤と向き合い,互いに納得いくまで話し合う活動を通して,お互いの相容れない思考や感情を調整・解決するコミュニケーション能力を育てるプログラムを開発することであった。実験は,葛藤の種類に合わせて計5つの実験で構成された。実験1では,認知的葛藤解決課題(リズム再生・理解課題)を用いて,子ども同士の協同解決が,前後のリズム構造の理解の変化にどのように影響するか検討を行った。実験2と実験3では,社会・文化的葛藤解決課題を実施し,仕事量や仕事内容,けがや空腹状態などを考慮しものを分配する場面で,子ども同士の話し合いが,その後の分配方法や分配規準にどのような影響を及ぼすかについて検討を行った。実験4では,情動的葛藤解決課題を実施し,藤田・浜崎(2003)において効果が認められなかったシミュレーション課題の改善を図るために,人形劇を用いたロールプレイや多様な視点取得を新たな要因として組み込み,その効果を検証した。最後に,実験5では,他者を知り協同解決(話し合い)過程を促進するための方法として,学び手の視点を考慮した教え合い-学び合う場面で教え手の役割を意識的に取る(足場作り)トレーニングの効果について検討を行った。以上の実験の分析の結果より,認知的葛藤解決課題は,課題構造的側面から話し合いに結びつくような方法上の改善が求められた。他の社会・文化的葛藤解決課題と情動的葛藤解決課題は,具体的なものを扱ったり人形劇でロールプレイを行うことが子どもの話し合いのプロセスを促進する効果が認められ,今後は,それらの課題に加えて,他者との相互理解を促すコミュニケーション能力を育てる関係構築のためのプログラムをより充実させて行くことが課題となった。
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