研究概要 |
本研究の目的は,非行少年ならびに非行傾向のある生徒に対する教育的関与を担う少年司法機関と学校現場の実践をつなぎ,かつ,より有効な関与を実現するための,子どもの理解論,関与論の展開にある。本研究では,少年司法機関と学校現場の共通点として,関与者と子どもの関係が「強いられた関係」であることが注目された。この共通する特質を踏まえつつ,本研究は,非行少年の心理的援助過程における「行動化」,さらには,非行等の問題行動そのものに着目して行われた。 本研究で明らかにした点は以下の通りである。 1.Freud, Klein, Winnicottの理論の詳細な検討を踏まえ,部分対象関係にある非行少年に対する心理的援助者のあり方を明らかにした。 2.保護観察における自験例の分析を通して,少年の再非行等の問題行動の中に,「希望」(Winnicott,1963)(すなわち,救援欲求)と「無意識的罪悪感」(Freud,1923)が認められること,そして,それが援助者に受けとめられ,「holding」(Winnicott,1963)されることを通して,「超自我・自我理想」(Freud,1923)の取り入れと内在化が促進されることを明らかにした。 3.少年の再非行等の問題行動は,「強いられた」virtualな関係である少年司法機関における援助関係に,動かしがたいrealityをもたらし,治療的課題を明らかにするという極めて重要な意味をもたらすことを,自験例の分析を通して明らかにした。 4.自験例の分析を通して,保護処分の基本的属性である権力構造が果たす治療的機能を明らかにした。 5.非行傾向のある生徒との関係で困難を感じている学校教師への援助例の分析を通して,生徒理解における二者関係段階の理論を含めた精神発達論の有効性を明らかにし,教師への援助者の置くべき視点を論じた。 6.上記1〜5の研究を通して,非行問題を抱えた少年の理解と対応の検討における心的発達論の重要性を指摘した。この重要性は,学校教師への質問紙調査の結果からも確認された。
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