研究概要 |
本研究は,報酬の価値割引,特に他個体と共有する報酬の主観的価値が減衰する過程(社会割引)を実験的に明らかにすることを通して,個体間の社会的相互作用を分析し,新たな研究枠組みの構築を目指した.社会割引の過程を実験的に検討する目的で,他個体と共に餌を摂食する共有餌場と自己のみで摂食する独占餌場を両端に持つ実験装置を用いて,共有餌場の共有個体数を組織的に変化させ,共有個体数毎に共有する14個の餌ペレットと主観的に等価となる独占餌場の餌ペレット数(主観的等価点)を求めた.この結果,主観的等価点は,共有個体数の関数として減少し,社会割引の現象が確認された.また,社会割引の過程は,双曲線関数と指数関数により,記述できること,社会的順位の低い相手よりも高い相手と共有する報酬は,より大きく割引かれる傾向が認められた。さらに,選択率という測度から社会割引の過程を一般対応法則にもとついて分析すると,過大対応となり,共有個体数次元に関するハトの感度はかなり高いことが認められた.以上の事実を前提に,2個体問の社会的相互作用を,ゲーム理論にもとづく共有と独占の選択場面において検討した.ゲーム構造として「囚人のジレンマ」と「チキン」,相手の方略として「しっぺ返し」と「ランダム」,対戦相手として、「サクラ」と「コンピュータ」という3要因を検討したところ,チキンゲームの方が囚人のジレンマゲームより共有選択の割合が多くなること,対戦相手の方略がしっぺ返しの方が,ランダムより共有選択の割合が多くなることが明らかにされた.以上の結果は,これまであまり知られていない事実であり,本研究の新たな発見といえる.
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