研究概要 |
本研究課題は色運動知覚メカニズムの解明のために、心理物理学的手法と脳磁計を用いた脳機能イメージングによるアプローチを試みた. 心理物理学実験では2次運動刺激(輝度コントラストまたは色度コントラストの変調により運動が定義される)に対する運動検出信号の統合過程を調べることにより,色運動メカニズムのうち最終段階での処理機構について解明した.実験の結果,2つの2次運動は両者の物理的運動速度が一致すると統合されるが,両者の速度に差が生じると,速度差の増加に伴って急激に統合されなくなり,個々の運動が独立かつ同時に知覚されることが明らかになった.これは,反対色チャンネルを経由して検出される2次色運動が最終的に従来の2次運動検出器,または,そこからの信号を入力する過程に伝達されていることを示唆している.さらに,従来色運動メカニズムの解明は主に反対色チャンネルのうちL, M錐体からの信号をもとに色情報を生成している経路について調べられていたがS錐体からの情報をもとに運動信号を生成する運動知覚メカニズムについて心理物理学実験を行った結果,S錐体からの情報は2次運動を媒介する色運動メカニズムに関与し,もう一方は,輝度または輝度コントラストを運動検出信号とする処理に関与していることが明らかになった.これらの結果に基づいて選ばれた刺激条件を利用して脳機能イメージングの実験した結果,運動刺激のオンセットに対して約100ミリ秒前後にピークを持つ応答が視覚1次野において推定された.この結果は先行知見と一致しており,後段における信号の振る舞いがどのようなものであるかを解析することが今後必要である.また,本年度の心理物理学実験で得られた結果をもとに,S錐体運動知覚メカニズムの信号の流れも脳機能イメージング実験において解明する必要がある.
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