研究概要 |
近代日本教育の成立と進展におけるお雇い教師の意義に着目し,とくにスコットランド人教師ヘンリー・ダイアー(Henry Dyer,1848-1918)を介した日本・スコットランド間における「教育連鎖」の諸相をめぐって,実証的・比較史的に考察した。とくに帰国後になした諸活動,たとえば(1)日本から持ち帰った図書・美術工芸品・楽器類などの寄贈と展示による日本紹介の促進,(2)特色ある日本研究(母国英国との比較のなかでの日本研究,日本近代化における国家的教育制度の役割に対する着目,日本を教訓にした英国社会改革の提案)の推進,(3)明治政府の「帝国財務及工業通信員」として日本の経済社会事情の英国への紹介,などを通して,日英交流の推進ならびに好意的な日本像の形成に貢献したことを明らかにした。 とくに日本研究(『大日本・東洋の英国』(1904),『世界政治のなかの日本』(1909)など)では,お雇い教師としての日本体験と日本観察を存分に生かし,しかも帝国財務及工業通信員を委嘱されたことで日本政府を介して入手した日本情報・資料を積極的に活用して,日本が国際社会の一員として台頭してきた原動力の分析をとおして,停滞する英国産業社会への教訓をさし示そうとしたことは注目される。 このようなお雇い教師を介した日本からの逆影響,ならびに日英の教育連鎖への着目は,近代日本教育の国際環境についてのあたらしい解明に寄与することであろう。
|