研究概要 |
本研究では幼稚園において演劇的な介入を中心とする教育カリキュラムを立案し,それが子どもの想像機能のみならず,知的感情的な発達をどのように促していくのかを目的とした.研究の結果,以下のことが明らかになった. まず演劇的な介入のあり方について,これまでの演劇教育ではある決まった筋を持った物語を演じることが想定されていたが,重要なのが年間をおおうテーマ(平成17年度では「妖怪」,平成18年度では「虫:その変身」)の設定と,それに関する「謎」の呈示であることが明らかになった. この介入を受けての幼稚園年長児の変化から,年長児において想像活動と知的探索活動が相互に影響しあい,促進しあうものであることが明らかになった.介入の結果,子どもたちはテーマに関連した想像遊びを様々に展開した.これが子どもの他の活動にたいして意味づけ(make sense),動機付けを与えた.その対象となった活動の一つは子どもたちの本などの文化的資源,園庭等の自然的資源に対する情報収集活動であり,たとえば後者においては想像活動と融合する形で自然に対する知的探索がおこなわれた.もう一つの活動はリテラシーに関するものであり,想像した対象へ手紙を書く活動がおこなわれた. 3つ目の知見として,演劇的介入が他のアート活動,特に描画活動に肯定的な影響を与えうることが明らかになった.想像遊びは描画活動に対し意味づけを与えるだけではなく,描画の中で子どもたちが描く材料をも提供した.さらに知的探索活動により収集された情報も,描画にとって材料となった. これらのことから,演劇的介入によって引き起こされた子どもの想像遊びが子どもの知的発達にとって大きな意味をもつことが明らかになった.
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