研究概要 |
重度の身体障害と知的障害を併せ持つ,重症心身障害児(者)(以下;重障児(者)では,情動の変化を表出することが困難なため,その評価は周囲の者の経験と観察にもとつく主観的なものが中心である。本研究では,まずコミュニケーションが極めて困難な重障児(者)における情動変化を,唾液に含まれる消化酵素の一つであるalpha(α)ーアミラーゼ(以下;唾液デミラーゼ)活性値を指標とし,(1)医療処置等のdistressとの関連性とその意義,(2)重障児(者)に対する教育や療育の評価,とくに快適な状況の指標としての可能性の2点を明らかにすることを目的とした。その結果,重障児(者)の医療的処置に伴うdistressに際し,唾液アミラーゼ活性値はdistressの強さの違いを反映し,その値は交感神経系の高進に大きく影響されていた。次に,重障児(者)のリラクゼーションを目的とした療育活動の一つである「スヌーズレン」におけるeustress(快適なストレス)の客観的評価の検証では,唾液アミラーゼ活性値が重障児(者)のeustressの状態を反映することが実証された。最後に,障害の程度が極めて重度で表情の変化や体動等の本人から発せられる情報がほとんど無い,超重症心身障害児(者)を対象とした教育的介入の効果の評価の検討では,様々な教育的介入時にリアルタイムで有意な唾液アミラーゼ活性値の変動がみられた。本研究の成果によって唾液アミフーゼ活性の様なバイオマーカーは,重障児(者)の心的状態を推測する上で有用な指標となることが示唆された。また,テスト冬トリップ式携帯型唾液アミラーゼ活性測定器は,重度の障害児(者)の心的状態の評価において優れた方法であった。本研究の成果は英文論文2編,和文論文2編,さらに国内外の学術学会において報告した(国際学会発表1件,国内学会発表9件)。これらの成果は重障児(者)の関連分野における活用が期待でき,そのQOLの向上に資するものと考えられた。
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