研究概要 |
情報幾何に現れる統計モデルの多様体のα-接続と呼ばれる対称なアファイン接続の1-パラメータ族から,統計モデルの多様体の接バンドル上に概ケーラー構造の1-パラメータ族が定義される.特に,正規モデルと離散分布族のモデルの場合にその接バンドルに導入される概ケーラー構造について,その微分幾何学的性質を調べた.中でもEinstein構造を持つ場合に興味が持たれるが,次のような結果が得られた. 1.接バンドルの概ケーラー構造がケーラー構造になるのは,α=±1の時に限ることが確認された.(このときのα接続は平坦である.) 2.正規モデルの場合,α=-1のときは接バンドルのケーラー構造は特に正則断面曲率が一定-2を持つこと.従ってこの場合はEinsteinとなる.一方,α=1のときはEinsteinにならない. 3.離散分布族のモデル(2次元)の場合,α=1のときは接バンドルのケーラー構造は特に正則断面曲率が一定1を持つこと.従ってこの場合はEinsteinとなる.一方,α=-1のときはEinsteinにならない. 更にこれらの結果を一般化して以下の結果を得た. 4.Poincare計量をもつn次元半空間上に導入されるα接続によって定義される接バンドルの概ケーラー構造がケーラー構造になるのは,α=±1の時に限り,α=-1のときは接バンドルのケーラー構造は正則断面曲率が一定であること.(これは正規モデルの場合の一般化に相当する.) 5.n次元球面(半径c)の正部分上に導入されるα接続によって定義される接バンドルの概ケーラー構造がケーラー構造になるのは,α=±c^2の時に限り,α=c^2のときは接バンドルのケーラー構造は正則断面曲率が一定であること.(これは離散分布族のモデルの場合の一般化に相当する.) 6.上記5.の結果はn次元双曲空間の場合でも同様に成立すること. 以上を示すために志磨裕彦氏によるHesse多様体のHesse断面曲率一定という概念が重要な役割を果たしていることが判明した.これらの結果は情報幾何と概エルミート幾何学をつなぐ新しい知見として注目され,情報幾何学的意味づけが解明されることが望まれる.
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