研究概要 |
本研究の目的は,任意有限次元微分可能閉多様体上の十分大きなクラスである擬軌道尾行性(以下SPと表す)を持つ写像全体におけるC^r-位相に関する内点に対し,その力学的・微分幾何学的特徴付け(双曲性の証明)を行うことであった。そして将来的には,それをもって「C^r-構造安定予想の解決に向けての研究」・「分岐理論の一般論的研究」に寄与してゆくことを目指す。本研究では,SPC^r-開条件(r≧2)から双曲性(すなわち,一様双曲性)を導くために次のような方針を採った。写像がC^2級以上であればPesin理論が応用できる(Pesin理論は(非一様)双曲性を測度論的に取り扱う理論で,現在,エノン写像等の研究に重要な役割を果たしている)。Pesin理論とSP理論(SP C^r-開条件)の融合を図ることにより(一様)双曲性の証明を試みた(形式的には『SP C^r-開条件+Pesin理論⇒双曲性』を示そうという研究であった)。 本研究の推進過程においては,力学系のエルゴード理論を用いた。Oseledecの定理により,与えられたエルゴード的不変測度μのサポート上の接ベクトル束に,リャプノフ指数に対応した分解がある。さらに,C^2以上でかつリャプノフ指数が(μに関し)いたるところで0でなければPesin理論より,非一様ではあるが双曲性が証明される。このような状況を満たす不変測度は,双曲的測度と呼ばれている。平成17年度は,SP C^r-開条件(r≧2)から(十分大きなサポートを持つ)双曲的測度の存在を示すことが本研究における主目的であり,研究分担者と共に鋭意その課題解決に向けて研究を推進してきた。しかし,平成19年度3月末においても,残念ながら論文として発表に値する成果は得られていない。 一方,本研究を推進して行く中で,同様の問題をベクトル場に対し考慮することの必然性・重要性がわかってきた。平成17年度末に得られた,擬軌道尾行性を満たすベクトル場の安定性に関する研究成果(Elsevier出版社,Journal of Differential Equationsに掲載)は,本研究課題をベクトル場に対し推進するための礎となるものであり,今後の新たな展開に向けての鍵となる重要な研究成果である。以上の点を総合し,本研究では当初目的の50%程度を達成できたと言える。
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