研究概要 |
本研究の物理目標は、長時間気球を用いた宇宙線原子核の観測データから、銀河宇宙線の加速・伝播機構に関する情報を得ることである。具体的にはシカゴ大学が中心となって行っているTRACER実験に共同研究者として参加し、2003年12月に南極で行われた長時間観測のデータ解析を行って、様々な原子核の絶対強度スペクトルを算出した。 TRACER実験で用いている検出器には、入射粒子の電離損失を検出するプラスチックシンチレータ、チェレンコフ光を検出するチェレンコフカウンタ、座標と電離の測定を同時に行うための比例計数管、遷移放射検出器などが層状に組み込まれている。解析ではまず合計1600本に及ぶ比例計数管のシグナルから入射粒子の飛跡を再構成する作業を行った。次に検出されたそれぞれの粒子について、同時に検出されているチェレンコフとシンチレータのシグナルから電荷を決定した。また、粒子のエネルギーは、1)1GeV領域についてはチェレンコブシグナルから、2)数10〜数100GeV領域では電離損失の相対論的増加から、3)400GeV〜については遷移放射シグナルからそれぞれ測定し、10^<14>eV〜10^<15>eV領域でのエネルギースペクトルを過去に例のない統計精度で算出することに成功した。この結果を宇宙線の加速・伝播モデルと比較した結果、10^<15>eV領域までスペクトルはスムーズに延びており、観測した全ての元素について、超新星爆発時の衝撃波によって加速されたという説と矛盾がないことがわかった。また、宇宙線源でのスペクトルのべき指数は-2.3、源付近で0.1g/cm^2程度の物質を通過してきていることも分かった。 TRACERグループでは更に改良を加えた検出器を用いて、2006年7月にスウェーデンで4日半の気球による宇宙線観測を行った。観測時間は予定よりも短かったが,観測データの初期解析を行ったところ,これまで観測できていなかったホウ素核がきちんと観測されていることが確認できた。これは検出器の動的範囲を改良した成果であり,これにより宇宙線伝播機構を解明するために重要なホウ素核/炭素核存在比のデータを算出することが可能となった。今後,この検出器を用いて,再度長時間観測を行う予定である。
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