研究概要 |
1.東北大学において行なったカルシウム-40を標的とした(e, e'p)実験の研究を完成させ,以前行った炭素-12や酸素-16の結果とともに相対論的理論計算と比較した.実験から得られた断面積は,いずれの標的に対しても理論の約半分であった.これは,理論に不十分な部分のあることを示唆している.中間子交換電流の寄与は,炭素-12で一番大きく,原子核が重くなるに従って小さくなる. 2.MIT-Batesで行なった四元移行運動量Q^2=0.33(GeV/c)^2における陽子の仮想光子コンプトン散乱実験から求めた分極率は,低エネルギー展開(LEX)による解析と分散関係式(DR)による解析で大きく異なる.これは,より大きな移行運動量領域では見られなかった事である.分散関係式による解析で求めたダイポール型パラメターは,MITの結果とJLabの結果に矛盾がないが,Maintz大学の結果は大きく異なる. 3.ジェファーソン研究所で行なった^3He (e, e'p)実験データを解析し,結果をPhysical Review Lettersで公表した.この研究は,^3Heの内の陽子の運動量分布を測定し,その結果をさまざまな波動関数を用いた計算と比較したが完全な一致は得られず,原子核に対する核子以外の寄与を含める必要がある事が判明したが,今のところその詳細は分かっていない. 4.ラムシフト型偏極度計を完成させ,その性能を評価した.この偏極度計により,重陽子の基底状態の3つの磁気量子数状態の割合を直接測定した. 5.京都大学の電子蓄積リングを用いて,自己閉じ込め型標的による内部標的電子散乱実験のテスト実験を行なった.この内部標的は,蓄積リングに蓄積されている電子ビームの作る静電的な引力を利用して,正イオン状態の原子をトラップし,電子散乱実験用の標的とするものである.トラップの様子はイオンを引き出してイオン質量分析系で評価し,実際にイオンがトラップされている事を確認した.また,リングにワイヤーターゲットを入れて散乱電子を利用して電子検出系の性能を評価した.
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