研究概要 |
スピン偏極した不安定原子核のβ遅発崩壊を、ベータ線の非対称度と同時に計測することによって、娘核の励起状態の励起エネルギー、スピン・パリティ、崩壊経路、崩壊強度を決定し、娘核の構造を明らかにするという、新しいアイデアに基づいた我々の実験が、カナダ国立素粒子原子核研究所TRIUMFの不安定核ビーム施設ISACにおいて進行中である。これまでに、中性子過剰核^<11>Beの励起状態のうち7つの状態のスピン・パリティを初めて決定することが出来、^<11>Beではアルファクラスター2つが良く発達した回転帯構造とアルファクラスターが崩れた構造が出現していることが明らかとなった。この実験手法の有効性は高く評価されPhysics Letters誌(2005年)に掲載された。 2006年には、不安定核から放出される低エネルギー中性子の測定手法の確立と、中性子数20付近の中性子過剰核の構造を突き止める実験の設計を行った。それぞれの概要は以下の通り。 (1)100keV以下のエネルギーの中性子を検出するために^6Liを埋め込んだガラスシンチレーターを採用し、応答関数の評価を詳細に行った。モンテ・カルロシミュレーションを用いて、シンチレーターに到達するまでの物質による散乱の効果が大きいことを示した。ここで得られた応答関数を^<11>Beからの崩壊中性子のデータ解析に用いて、崩壊強度の幅と強度を求めた。 (2)中性子が多くなると魔法数が変化するのではないかと言われているMgのアイソトープの構造を突き止めるためには、本研究で開発した実験手法がもっとも適している。励起準位のスピン・パリティがほとんどわかっていない^<28>Mg,^<29>Mg,^<30>Mg,^<31>Mg,^<32>Mgの構造を調べるために、スピン偏極した^<28>Na,^<29>Na,^<30>Na,^<31>Na,^<32>Naビームを用いた実験を詳細に検討した。主な崩壊モードはガンマ崩壊となるので、多数のガンマ線検出器を配置した実験装置を設計し、TRIUMFのグループと具体化に向けた議論と行った。この成果をTRIUMFでの実験課題申請書としてまとめ、国際評価委員会からhigh priorityの実験として評価を受けた。
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