研究概要 |
半導体超格子におけるエネルギー散逸と縦方向輸送との関係を調べた.海外共同研究者Eaves教授のグループが複数の試料を用いて詳細な測定を行った.その測定結果と非平衡グリーン関数法による計算結果との比較を行い,以下のことが分かった. 1.実験的に得られた電流電圧特性から非弾性散乱時間を見積った.その結果,磁場による閉じ込めが増すに従って非弾性散乱時間が増加することを確認した. 2.非弾性散乱時間の増加の様子を,サイクロトロンエネルギーをミニバンド幅で割った値の関数としてプロットするとユニバーサルな曲線に乗ることが分かった. また,半導体超格子に強磁場(最大47T)を印加した場合のブロッホ電子の動力学についても測定結果との比較検討を行った.隣り合うワニエ・シュタルク・ランダウ準位が共鳴するような電場・磁場の条件の時,電流電圧特性に共鳴が現れることを実験的に観測した.その際,電子は磁気フォノン共鳴によりエネルギー緩和を行っていることを確認した.成長軸から磁場を傾けて印加した場合,電子の運動に顕著な変化が現れることも分かった.磁場・電場の広い範囲において,電流が大きく増加する様子が観測された.これらの領域の間の遷移は,半古典的なモデルおよび量子力学的なモデルのどちらでも説明できることを見いだした.半古典的なモデルの場合,θ>0°の時,磁場の成長軸に垂直な成分は,ブロッホ運動とサイクロトロン運動との混合を引き起こし,電子軌道の空間的な広がりを導く.量子力学的なモデルの場合,磁場の成長軸に垂直な成分は,等エネルギーのワニエ・シュタルク・ランダウ準位の縮退を解き,新しいタイプの磁場誘起ミニバンド状態を導くことが分かった.
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