研究概要 |
酸化物超伝導体の典型的な物質YBa_2Cu_3O_yのアンダードープ最表面の走査トンネル顕微鏡/分光法(STM/STS)を行い,銅酸化物高温超伝導体の超伝導が発現する過程のアンダードープ領域において,原子像(電荷密度像),状態密度,擬ギャップ,超伝導ギャップ,電子秩序状態などの観察を行った.YBa_2Cu_30_y単結晶の壁開面はBaO面とCuO鎖面で構成され,BaO面には直下に存在するアンダードープ的なCuO_2面の情報が重畳した振る舞いが観測される.高バイアスから低バイアス領域までの系統的なSTM測定の結果,高バイアスではBaとOから構成される原子面のみがSTM像として観測されるが,10mV以下の低バイアス領域では,Cu-Oの結合方向に変調構造が観測された.このことから,アンダードープ最表面では不均一な空間分布を持つ電子秩序状態が存在することが明らかになった.CuO_2面の電子状態を反映したこの変調構造は1次元性が比較的強く,3〜4格子定数程度の間隔で存在するが,その配列は周期的ではなく乱れた配置をとっている.酸化物高温超伝導体における電子秩序状態は,Bi_2Sr_2CaCu_2O_yやCa_<2-x>Na_xCuO_2Cl_2では〜4a×4aのチェッカーボードパターンとして,La_<2-x>Sr_xCuO_yではストライプとして観測されるが,YBa_2Cu_3O_yでは何らかの理由で長距離秩序を持たず,乱れた状態で安定化していると考えられる.不純物としてZnやNiを置換したYBa_2Cu_3O_yにおいても類似した1次元的変調構造が現れることから,高温超伝導体に存在する隠れた秩序状態がアンダードープと不純物置換によって引き起こされると考えられる.
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