研究概要 |
本研究の目的は新生代後期を通じて,対馬・朝鮮海峡の開閉が貝形虫の移動や消滅,進化とどのような関連性があるのかを解明することである.そこで,平成17年〜19年度,長崎県対馬の閉鎖的内湾(舟志湾,浅茅湾,三浦湾)および大村湾で現世堆積物の採取を行い,現生貝形虫群集の解析を行った.化石に関しては,新潟県鮮新統鍬江層,宮崎県宮崎層群,中国山地の中新統などから試料採取を行った.また,既存の研究やこれまでに採取してきた日本の下部中新統から完新統までの堆積物試料についても検討した.結論としては以下の4点である. 1.少なくとも中期更新世(海洋酸素同位体ステージ12)よりあと現在まで,朝鮮海峡が閉鎖的内湾泥底種の分布を規制する地理的障壁になっている.すなわち,日本産の内湾貝形虫群集と,朝鮮・中国産とは優占種に関して,違いが見られた. 2.中部鮮新統鍬江層の間氷期の堆積物中には水深50m以浅に生息する暖流系種が認められ,特に,約2.9Maには確実に暖流が流入した可能性が高い.しかしながら,当時黒潮影響下に生息した主要な貝形虫種(例えば,宮崎層群の貝形虫化石群集)は少ない.このように流入した暖流は厚さも規模も今よりの弱かったと推定される. 3.鮮新世中期の間氷期の日本海には,水温が6℃以上の温暖な中層水が発達し,現在のような水温5℃以下の日本海中層水は無かったと推定される.ただし,このような温暖中層水の流入経路については明確にならなかった. 4.中期中新世前期の温暖期(約16Ma)Mid-Neogene climatic optimum)には南方海峡が大きく開き,継続的に暖流が流入していたため,中国山地から東北地方まで類似した熱帯-亜熱帯系浅海貝形虫群集が繁栄していた.この群集は前期中新世後期(17-18Ma)の群集とは異なる点が多い.
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