研究概要 |
本研究では,気相中のクラスターイオンに対して赤外分光計測および量子化学計算を行い,金属イオンの配位・溶媒和構造について調査した.以下に具体的な成果の例を示す. 1.アンモニアのNH結合にAl^+が挿入した構造[H-Al-NH_2]+よりも,Al^+にアンモニアがそのまま配位したアダクト型構造[Al-NH_3]+の方が安定である.しかし,溶媒分子数【greater than or equal】4についての赤外スペクトルには,挿入型構造を核とする[(H-Al-NH_2)(NH_3)_<n-1>]+が支配的に観測された.nの増加に伴い,アダクト型構造よりも挿入型構造の方が大きく安定化することが判明した. 2.M^+(H_2O)_n(M=Cu, Ag)において,n=3の場合,水分子全てが直接M^+に配位した(3+0)構造と,3分子めが第2溶媒和圏にまわった(2+1)構造が可能である.赤外スペクトルを測定したところ,Cu+(H_2O)_3では(2+1)構造,Ag^+(H_2O)_3では(3+0)構造が支配的に観測された.この違いは,直線型の2配位構造を核とした(2+1)型の安定性の要因である,金属原子のs-d混成の強弱により説明される,M=Agでは,n=4になると(3+1)型に加えて(2+2)型の異性体も同程度に観測され,3配位構造の優位性がみられなくなる.一方,M=Cuでは,n=【greater than or equal】4のスペクトルにも直線型の2配位構造が支配的に観測され,水和構造の核を形成していることがわかった. 3.Cu^+(NH_3)_nにおいて,n=3では,(3+0)構造が支配的であり,(2+1)構造が最安定であるCu^+(H_2O)_3とは異なる結果となった.n=4および5のスペクトルは,2〜4配位型構造が異性体として共存した複雑な様相を示すが,n【greater than or equal】6になると直線型の2配位構造を核とした溶媒和構造が支配的となり,Cu^+(H_2O)_nと同様の配位・溶媒和構造を示すことが明らかとなった.
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