研究概要 |
低温で凍結したアモルファス状態の分子集合体における構造緩和研究の一環として,分子自体の構造変化と分子間相対的配向変化の関わりを明らかにする目的で,配座異性体をもつ化合物を試料とし,温度上昇による試料構造変化を研究した. 初年度は,真空装置を改良し,汚染の少ない条件でアモルファス試料の低温ラマンスペクトル測定をする体勢を整えた.また,この作業と並行してアモルファス1,2-ジクロロエタン(DCE)の構造緩和の研究を行い,温度上昇によりアモルファス固体状態においてもgauche分子の増加が見られることなど,興味ある現象を見いだした. 第2年度には,DCEのアモルファス状態からの構造緩和を詳細に検討した.gauche分子のモル分率をラマンバンド強度から見積もると,まず,蒸気蒸着時の試料表面温度の上昇は数K以下であることがわかった.また,試料温度の上昇により一般にgauche分子の増加が見られるが,ある一定の温度までは増加の程度が少なく,それ以上の温度では増加が急速になることなどが確認できた.これらの結果を総合して,アモルファスDCEの温度上昇による構造緩和について詳細な考察を行い,結果をJ.Phys.Chem.Bにおいて報告した.また,DCEと同様にgauche, transの配座異性体をとるブチロニトリルについても類似の研究を行い,特に,ラマンバンド波数シフトの温度依存性の変化からガラス転移を確認することができた.これは,分光学的方法によりガラス転移を確認することができた初めての例である.これらの結果はJ.Non-Cryst.Solidsで報告した.さらに,分子性試料をガラス転移温度に近い温度で試料を蒸着すると,従来知られていた緩和過程と異なる挙動を示すことが以上の研究過程でわかり,この問題の検討を現在継続中である.
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