研究概要 |
ウマ血清アルブミン(ESA)は45℃の加熱により、また、約400MPaの加圧により凝集体を生じた。加熱による凝集体形成では、温度上昇によりα-helix構造の現象に伴い分子間β-sheet構造が形成され、冷却後も二次構造は天然状態に戻らず、凝集体は形成されたままであった。一方、圧力による凝集体形成では分子間β-sheet構造は形成されず、常圧まで減圧することで、二次構造が天然状態まで回復し、凝集体も消失した。したがって、熱凝集体は主鎖間の水素結合ネットワークにより凝集体が形成されているが、圧力凝集体は主鎖間の水素結合ネツトワークを形成せずに、圧力変性構造の状態で凝集したものであると考えられる。また、天然状態におけるESAの加圧実験と熱凝集体の加圧による分子間β-sheet構造の減少の追跡から分子間β-sheet構造の形成は体積的に不利であることが明らかとなった。熱凝集体形成の抑制における圧力効果を調べるために各圧力条件下において25℃から60℃への温度ジャンプ実験を行った。分子間β-sheet構造のピーク強度の時間依存性を拡張型指数関数を用いて解析したところ、常圧条件下では、さまざまな速度定数の凝集体形成速度を生じているが、加圧にともない速度定数の分布が狭くなり、遅い反応のみが生じていることが示唆された。また、分子間β-sheet構造のピーク強度の最大値にも大きな違いが見られた。したがって、加圧により、形成可能な分子間β-sheetが制限されたことで、熱による凝集体形成が抑制されることが明らかになった。 牛インスリン(INS)アミロイド線維のアミドI/I'バンドから、INSアミロイド線維は天然に存在しない平行型β-sheet構造に起因するピーク(1619cm-1)が形成時間に依存せずにそれぞれ観測された。0.3時間,1時間,3時間の温置時間におけるこれらのピークは200MPa以上の圧力で完全に消失した。常圧との吸光度の差ΔAの圧力依存性から算出したそれぞれの温置時間におけるINSアミロイド線維(β-sheet構造)の解離に伴い体積変化は大きな負の体積変化示した。また、その値はInsアミロイド線維形成時間に依存せずほぼ同じ値であつた。一方、6時間,12時間,72時間の温置時間で形成させたアミロイド繊維は1GPaの圧力をかけても消失しなかつた。1GPaに加圧後減圧したこれらのIRスペクトルを比較すると、時間経過に伴いβ-sheet構造を示すピークが強く観測された。このことから,時間経に伴いβ-sheet構造が圧力に対して変化しにくい構造へ変化していることが明らかとなった。
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