研究課題
基盤研究(C)
一般的にシングレットビラジカル性を有する分子は非常に反応性に富み、安定に単離することが出来ない。私はフェナレニルラジカルの不対電子の非局在可能を活用することにより、シングレットビラジカル性を有する分子を安定に単離することに成功し、シングレットビラジカル分子の詳細な電子構造の解明と固体物性の評価を行った。二つのフェナレニルラジカルを、ナフタレン及びアントラセンで連結した化合物はそれぞれ、50%及び68%のビラジカル性を有することが量子化学計算から明らかとなった。両化合物はフロンティア軌道であるHOMOとLUMOのエネルギー差が小さいことが電気化学的測定及び電子吸収スペクトルから明らかとなり、高いビラジカル性を支持する結果が得られた。また、磁気的測定から基底一重項と励起三重項状態のエネルギー差が約2000Kと非常に小さいことが分かり、高いビラジカル性を支持していた。結晶構造は、分子内の不対電子間相互作用の弱さに由来する強い分子間相互作用に支配された積層様式をとっていた。分子は非常に小さな面間距離で積層しており、分子間に大きな軌道の重なりが存在していた。そのため充分な電導パスが形成されており、室温での電導度は10-5Scm-1という単成分炭化水素分子としては非常に高い値を示した。さらには、分子内の不対電子間相互作用の弱さに起因する、大きな三次の非線形光学特性(二光子吸収特性)が観測され、従来理論的に予測されていた中間解離電子状態の巨大非線形応答を実験的に明らかにすることに成功した。このように、シングレットビラジカル分子の単離、単分子の電子構造解明、分子集合体の電子構造解明、非線形光学特性を明らかにすることに成功した。
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