研究概要 |
芳香族臭素化物とリチウム2,2,6,6-テトラメチルピペリジド(LiTMP)をTHF中で混合することによる,新しい化学発光系を見出した。化学発光は興味深い現象ではあるが,発光を伴う化学反応例はそれほど多くは無い。近年,化学発光が応用に供されるようになり,化学発光過程の基礎化学を理解することの重要性が増している。そこで、我々の見出した新規な発光系の発光機構を解明することを目的として,本研究を行った。 発光スペクトルの測定は,本申請で購入した光ファイバー式分光器を用いて行った。反応初期には610nmに極大のある発光で、混合後1秒程度たった液にハロゲン化物を加えると640nmに発光極大があった。反応液を数時間放置した後にも,蛍光スペクトルには,580nmあたりに発光極大が見出せた。 反応混合物を分離精製したところ,原料の芳香環にTMPが置換した化合物とアントラセン誘導体を単離することができた。これら以外にも複数の微量蛍光物質があることがわかったが,精製はできなかった。上記の単離化合物および微量の未精製蛍光物質の蛍光スペクトルは,いずれも発光極大は530nmよりは短波長であった。 この反応では、THFがLi試薬により分解しエノレートアニオンを生成し、それが芳香族ハロゲン化物から生じたベンザインに付加し、ベンゾシクロブテンを与え、さらに開環した後にベンザインと反応し最終的にアントラセン誘導体を生じる。 THF以外の溶媒で、エノレートを発生しないものを選べば、反応機構上で、エノレート以後の化学種が発光に関与しているかを判定できる。ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ヘキサンでは発光が認められないので、エノレート以後の化学種が関与していると考えられるが、エノレートが生成しないと考えられるジブチルエーテル中でも弱い発光が認められたので、エノレートの関与の有無は未確定である。
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