研究概要 |
ジリチオフェロセンを原料とした多段階の反応によりP(NEt_2)架橋[1.1]ferrocenophaneを合成した。生成物はantiとsynの比が5:4の異性体混合物あった。次に,リン上のアミノ基をクロル化するためにHClとの反応を行った。この反応は,出発にsynとantiの混合物を用いたにもかかわらず,単一の異性体を与えた。このようにして得られた,synのクロロホスフィン体に対して,アリール化,アルキル化,およびアミノ化を試みたところ,期待どおりsynの構造を保持したまま進行し,一連の置換基を有するリン架橋[1.1]ferrocenophaneを合成することが出来た。 配位不飽和な遷移金属アルキル錯体は,触媒反応の中間体として重要な化学種であるが,16電子の平面4配位種を除くとその単離例は,極めて限られる。特にコバルトジホスフィンジアルキル錯体は,電子移動を介したHeck型反応触媒の鍵錯体として重要であるが,未だ合成例がない。そこで,比較的嵩高いフェロセンを2つもつRP-架橋[1.1]ferrocenophaneの立体保護効果を利用して,不安定錯体の単離を試みた。 CoCl_2にリン配位子を反応させ,ジホンスフィンジクロロ錯体を合成した。この錯体にMe_3SiCH_2MgClを反応させるとR=Phでは,モノアルキル体とジアルキル体の混合物となった。この反応では,モノアルキル体の溶解度が低いため,ジアルキル体のみを得ることは困難であった。一方,R=CH_2SiMe_3では,ジアルキル体のみが得られ,その構造をX線解析で確認することが出来た。 一方,[CoCl_2(dppp)]に対してMe_3SiCH_2MgClを用いて同様のアルキル化を行うと(Me_3SiCH_2)_2の還元的脱離が進行し,ゼロ価のコバルト錯体[Co(dppp)_2]が不均化により生じた。この結果は,リン架橋[1.1]ferrocenophane配位子が単に立体保護基としてはたらくだけでなく,フェロセンの大きな電子供与性により電子的にもジアルキル錯体を安定化していることを示している。
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