研究概要 |
本研究では,世界最高輝度の放射光を利用した軟X線発光・吸収分光法による軽元素機能材料の高精度状態分析技術の確立とその産業応用を目的とした。 我々は炭素材料を中心とした軽元素機能材料の電子・化学結合状態の解析手法として,高輝度放射光を用いた軟X線発光・吸収分光法が有効であると考え,10年以上前より本研究に取り組んできた。本法を実材料に"使える"状態分析技術として確立するためには,(1)指紋分析に必要な基礎分光データベースの構築と,(2)様々な材料の分析を通して本法の適用範囲を明らかにして実用性を示すことが必要である。本研究では,まず(1)について,(a)非晶質炭素材料の局所構造解析に向けた多環式芳香族化合物の基礎分光データベースの構築をはかった。また,(b)黒鉛系炭素材料の評価のためにカーボンブラックの分光データベースを構築した。さらに,(c)標準物質の軟X線スペクトルデータのウェブ上での公開も開始した。(2)については,(a)熱CVD炭素膜(いぶし瓦の被覆膜)の状態分析,(b)ダイヤモンド半導体の電子構造解析,(c)カーボンブラックの局所構造解析,および(d)プラズマ炭素注入シリコンの分析を行い,これら材料の開発研究に対する本分析技術の有効性を示した。産業応用の観点からは,本分析技術が熱CVD炭素膜やカーボンブラックなどの黒鉛系炭素材料における炭素六角網面構造の新評価手法として利用されることが期待される。加えて,ダイヤモンド半導体などのワイドギャップ半導体における精密電子構造解析技術として更なる利用が期待される。
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