研究概要 |
1.リチウムは今後、リチウムイオン電池の普及と共に、その需要量が大幅に増加することが予想される。しかし、資源には限界があり、海水中または廃水中からリチウムイオンを分離できればエネルギー問題、資源問題への寄与は極めて大きいと考えられる。我々は、2,9-ジクロロ-1,10-フェナントロリン又は6,6'-ジブロモ-2,2'-ビピリジンを出発原料として窒素原子を含む芳香族環状構造を構築することにより、リチウムに対して高い選択性を達成することが出来た。これらの化合物はリチウムイオンとの相互作用により共役系が変化し、スペクトルが大きく変わることも大きな特徴である。また、そのマンガン錯体は炭化水素への酸化触媒として有効であることを見出した。 2.我々は、これらの含窒素大環状化合物はその構造的歪みのため光により異性化し、これがリチウムイオンと強い相互作用を示す可能性を見出した。そこで、ピリジン環を含み、光により異性化する種々の環状廃位子を合成し、光によりリチウムイオンの捕捉を制御できる可能性を検討することとした。 3.我々はすでに我々により始めて合成された2,9-ジクロロ-1,10-フェナントロリンを用いていくつかの活性メチレン化合物と反応させることにより、これらが光によりプロトンが移動し、スペクトルが大きく変わることを見出している。 4.本研究では、2,9-ジクロロ-1,10-フェナントロリンと両末端にシアノ酢酸エステル基をもつポリエーテルとを反応させ、1,10-フェナントロリン環とクラウンエーテル構造および活性メチン基を併せ持つ大環状化合物の合成を行うこととし、高収率で合成することに成功した。この環状化合物はリチウムを選択的に捕捉すること、および光照射により共役系が減少し無色となることを見出した。また、光照射後はリチウムイオンを取り込まなくなること、リチウムを取り込んだ後に光を照射しても構造変化は起こらないことから、光によりリチウムイオンの取り込みが制御されることがわかった。 今後、光により制御できるリチウムイオンキャリヤとしての利用が期待される。 5.研究計画では、ピリジルピリジリデンアセトニトリル構造とクラウンエーテル構造を併せ持つ大環状化合物の合成を試みることも目的の一つであったが、興味深い中間体が得られたのみで、その環化反応については、今後の課題となった。
|