研究概要 |
Fc/MgO/Fcトンネル接合において,室温で400%にも達するトンネル磁気抵抗効果(TMR)が観測されている。エピタキシャルな接合においては,ブロッホ波の運動量および対称性が保存されるため,MgOは運動量フィルター,対称性フィルターとして働く。さらにFeのdelta-1バンドがハーフ・メタル的であることから,結果としてMgOはスピン・フィルターとして機能し,大きなTMRが生じると考えられている。しかし,現実の接合には乱れが存在し,TMRが乱れによってどの程度の影響を受けるのかは明らかでない。本研究では,MgO中の乱れや界面の乱れの程度とTMRの関係を調べた。また,強磁性絶縁体はMgOとは異なる機構でスピン・フィルター効果を生じる。そこで,強磁性絶縁体LaNi_<0.5>Mn_<0.5>O_3を用いたトンネル接合におけるTMR効果についても調べた。 大規模な数値シミュレーションを実行した結果,乱れによってFe/MgO/Fe接合におけるTMRが減少することが明らかになった。MgO中において,MgとOが1%の割合で置換されている場合には,TMRは乱れがない場合の1,600%から800%にまで減少する。また,FeとMgOとの格子ミスフィットが界面で均一に緩和される場合にはTMRの減少は小さい。だだし,転位などの局所的で大きな乱れが界面にある場合には,TMRは大きく減少することが示された。 LaNi_<0.5>Mn_<0.5>O_3の電子構造をバンド計算により求め,スピン・フィルター効果を調べた。LaNi_<0.5>Mn_<0.5>O_3をLaNiO_3ではさんだトンネル接合においては,LaNi_<0.5>Mn_<0.5>O_3の膜厚が6u.c.の場合に,99%もの効率のスピン・フィルター効果が得られた。従って,(La-Sr)MnO_3/LaNiO_3/LaNi_<0.5>Mn_<0.5>O_3/LaNiO_3接合では,低温でFe/MgO/Fe接合よりも大きなTMRが得られると期待される。
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