研究概要 |
ステンレス鋼材以上の優れた耐腐食性能を有するマグネシウムシリサイド(Mg_2Si)をスパッタ法によってマグネシウム合金表面に薄膜として形成し,素地合金の耐腐食性を向上させる際,薄膜形成過程における膜近傍における素地結晶粒の粗大・成長の有無を確認すると同時に,静的引張特性ならびに動的疲労強度への影響を解析した.先ず,複合ターゲットおよびSPS焼結ターゲットの違いによるスパッタ薄膜構造への影響を調査した結果,前者を用いることでMg-Si薄膜における非晶質化形成能が向上することを確認した.またAZ31およびAZ91合金をターゲットに用いた場合,Al含有量の多いAZ91合金において非晶質化能の向上を明らかとした.静的強度評価として,汎用マグネシウム(Mg)合金AZ31製引張試験片表面に非晶質および結晶構造を有するMg-Si薄膜を形成し,常温にて引張試験を行った.非晶質・結晶構造薄膜のいずれのスパッタ薄膜を付与した場合の引張強さ・破断伸びは,スパッタ皮膜を形成しない試験片と大差は無く,スパッタ過程での熱ダメージおよび表面拘束による機械的特性の低下は見られなかった.動的強度評価としてピンオンディスク式摩耗試験を用いて繰り返しヘルツ応力を付与した際,Mg合金製ディスク試験片の表面に作製したMg-Si薄膜とMg合金素地との界面剥離挙動を観察することで密着性を評価した.摩擦係数は非晶質化皮膜の方が安定しており,これは結晶構造皮膜の硬度が低く,その結果,相手材によるアブレッシブ摩耗の進行が顕著となったために摩擦係数の変動が生じた.また同試験においてMg-Si薄膜とMg素地との界面強度が十分に高いことが示唆されたとともに,薄膜のヤング率が素地のMg合金に比べて3倍程度大きいために僅か素地側へ移動した位置に最大ヘルツ応力が付与されたと考える.
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