研究概要 |
射出成形加工では金型内樹脂冷却状態や流動状態を把握するために,数値シミュレーション(CAE)が広く使用されている,しかし,金型内へ充填される樹脂は,高圧力・高粘度であるため,金型内樹脂の温度分布を直接測定することができない. そこで本研究では,圧力-音速-温度の関係を用い,金型内樹脂の音速分布を測定して温度分布を求める方法を確立することを目的とし,実験的研究を行ってきた. 具体的には,トレーサーとして直径0.15mm,長さ4〜5mmの銅線を樹脂に混入して射出成形加工を行った.金型の外表面には周波数5MHzの超音波送受信子を取り付け,超音波を金型内の樹脂へ投射してその反射波形を測定・解析し,金型内樹脂の音速分布を求めた,さらに金型内の圧力を圧力センサで測定して,圧力-音速-温度の関係から温度分布を測定するものである,なお,使用した樹脂は,融点以下では不透明となる結晶性の樹脂,高密度ポリエチレンを使用した,測定は,樹脂充填終了後,つまり,樹脂の流動が停止した後から始めた.なお,バレルの設定温度は210℃,射出速度は3種類変化させた.本研究では,次のような実験的研究を行った.(1)アクリル板を積層し,各層の間にヒータと熱電対を入れ,ヒータで加熱することにより積層した物体の厚さ方向に温度分布をつくり,その温度を熱電対で測定するとともに本方法で音素を測定し,比較した.(2)実際に射出成形できる金型を作製し,金型外表面に取り付けた超音波送受信子で樹脂内部のファイバーの像をパーソナルコンピュータに記録し,充填終了後のファイバーの動きから樹脂内部の温度を推定した.以上のような実験の結果,次のようなことが分かった.(1)アクリル板を積層した物体内の温度分布を測定したところ,熱電対の測定結果と概ね合致する結果となった.しかし,音速を算出する際の各層間の距離が測定精度に大きく影響することがわかった,(2)実際に成形した結果,射出速度が遅い方が,金型内樹脂の厚さ方向の製均音速は高くなる.圧力-音速-温度の関係から推察すると,温度が低くなる,(3)充填終了直後は,金型壁面付近の温度が低く,中央付近の温度が高くなる温度分布を示す,(4)冷却終了後の時間経過とともに,壁面付近と中央付近の温度差が小さくなり,均一な温度へ移行していく状況を可視化することができた. 以上のように,充填終了後の樹脂内部の温度分布を測定でき,その冷却挙動も測定することができた.
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