研究概要 |
ますます過酷になる作動条件の下で機能する転がり軸受を安定に作動させるためには,高面圧の下で,しかも固体接触を伴う状況下でのEHL膜厚とその挙動を観測する必要がある,そのためには,従来からの光学的な観測だけでは不十分であり,光を透さない実際の軸受面間でのEHL膜部の潤滑状態を明らかにしなければならない. ここでは,超音波パルス反射法を用い,100ナノメータ以下のEHL膜測定のための新しい油膜厚さ測定法の提案と,「市販の鋼製軸受のEHL膜の厚さならびにその挙動」を把握できる新しい計測システムを確立することを目的とした. 実施の結果,大気圧・静的条件の下で,50MHz高周波探触子により求めた油膜厚さと超音波の反射特性との関係は,薄膜部での超音波の干渉と超音波照射領域内でのエコー高さの平均化を考慮した理論により求めたそれらの関係とよく一致することが確かめられた. また,既知の膜厚に対するエコー高さの関係を予備的に実測して較正曲線を求め,これにより静的な膜厚の推定を行った結果,表面に数十nmのコーティング層を持つ面の場合を含めて,100nm以下の膜厚推定が,容易にできることが明らかになった. そして,回転円板を光学ガラスとし,転動体を鋼球とした単球型EHL試験機により,超音波法で観測したエコー高さの分布形状は,光干渉法で観測したEHL膜の形状と定性的に一致した.回転円板を鋼に変更して同様の実験を行った場合も,ガラス円板を用いて光干渉法で観測される一般的なEHL膜の形状と同じ馬蹄形の油膜が観測できた.また,EHL膜の形成に及ぼす速度や荷重の影響も,一般的な傾向を示しており,超音波法によるEHL膜厚測定の可能性を支持する結果が得られた. さらに,市販の転がり軸受の潤滑状態を把握できる,転動体公転停止機能を備えたスラスト軸受試験機を用いて,固体接触の開始直前までの膜厚挙動を観測した結果,点接触で高面圧になった油の物性変化によって膜厚の変化が捉え難くはなるものの,上記の鋼平板と同じように,EHL的な膜厚挙動を示すことを明らかにすることができた. 以上述べたように,超音波法による市販鋼製軸受でのEHL部潤滑状態評価の可能性の確認と,技術開発のための基礎が確立できた.
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