研究概要 |
べん毛を一本もつ単毛性細菌の一種であるビブリオ菌(Vibrio alginolyticus)は,べん毛の回転方向を時計方向と反時計方向に切り替えることにより,前進したり後退したりする。そして,ほぼ同じ軌跡をたどりながら直線的にジグザグに運動する。しかし,境界があるときには,その運動は変化し,円弧状に運動する。また,運動速度も前進と後退では異なり,後退運動速度の方が大きい。 本研究では,壁面近くを泳ぐビブリオ菌の運動を境界要素解析した。その結果,ビブリオ菌の運動(速度と角速度)は,菌体とべん毛の軸線と壁面とのなす角(ピッチ角)に大きく左右されることが明らかになった。この影響は,前進と後退では異なり,前進運動時にはピッチング運動が安定であるのに対して,後退運動時には不安定となる。数値解析結果を総合的に判断して,前進,後退運動の非対称性を説明する模式図を描くことができた。前進運動では,ピッチング運動が安定であるため,細菌は壁面に対して平行に運動する傾向がある。このとき,壁面との間に一定の大きさの流体力学的干渉があるため,運動速度が小さくなる。しかし,後退運動では,ピッチング運動が不安定であるため,細菌は壁面に向かう運動か,壁面から離れる運動を行う。壁面に向かう運動のときには,べん毛と壁面の流体力学的な干渉が強くなり,軌跡が円弧状になるとともに,運動速度も大きくなる。壁面から離れる運動のときには,流体力学的な干渉が弱くなり,自由空間を運動しているのに近くなって運動速度が大きくなる。 また,周毛性細菌に見られる前進時の円弧状運動に関して,菌体とべん毛の大きさの見かけ上の比が,単毛性細菌とは異なっていることが原因ではないかとの推測結果を得た。
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