研究概要 |
医療分野において患者に薬剤を投与する場合,通常服用や注射が行われるが,この方法では薬剤が患部だけではなく体内全体にまわってしまう上,患部で必要な濃度を確保するために薬剤の量を多くせざるを得ず,正常な部位にも強く作用して副作用が生じる問題を避けることができない.例えば,制がん剤はがん細胞以外に正常な細胞にも作用して副作用を生じさせるため,がん細胞にだけ集中的に作用させることが望まれる.薬剤を患部に集中させる方法の一つとして磁気力により薬剤を患部に集中,保持する方法が考えられる.薬剤に磁性をもたせる方法として,薬剤自体に磁性をもたせる,薬剤の化学構造の一部に磁性をもつ部分を付加する,磁性流体を混ぜたものをエマルジョン化するなどの方法が考えられる.これらを血管に注入して外部から磁気力で患部へ誘導し,集中,保持して治療しようとする試みである. 本研究はこの問題の基礎として磁化された液体塊(液滴)を磁気力によって流れの中の一箇所に集中・保持することを試み、このとき生じる諸問題を解明したものである.具体的には磁性薬剤を磁性流体で,血液を清水でそれぞれ模擬して次の実験を行った. 1.磁性液滴の磁気力による捕獲 水中を落下する磁性液滴を磁気力によって捕獲することを試み,磁気力の強さ,液滴の大きさ,濃度による捕獲可能の限界,捕獲時の液滴の軌跡,速度の変化,形状の変化などを調べた. 2.水流中における液滴の集中・保持 磁性液滴の大きさ,外部印加磁場の強さを変え,水中において保持された液滴形状の変化,スパイクの発生状況,スパイクの水流による運動などを調べた. 3.磁性液滴形状の界面性状による変化 水中における表面張力やエマルジョン表面の張力,液滴体積により液滴形状が変化すると予想されるため,その基礎研究として磁性液面上に種々の性状の膜を形成し,スパイク発生に対する強さ,磁気の強さによる形状変化などを調べた.
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