研究概要 |
本研究の目的は,応答遅れがある汎用温度センサを応答補償することにより「丈夫」で「速い」センサを実現し,その適用範囲を飛躍的に拡大することである.これに関する手法はたびたび提案されてはいるものの,実用技術とは言いがたい.実用化を阻む最大の要因は,センサの応答特性が測定対象の流体(気体と液体),流速,検知部の汚れといったセンサ周囲の状況によって大きく変化することである.このため,動特性の校正データに基づいて応答補償できる場合は極めて限られる.本研究の目標は,先に開発した「センサ周囲の状態の変化に適応できる応答補償技術」の確立とその実用化である.得られた主な研究成果は次のとおりである. 1.先に報告した細線温度センサの周波数応答理論を拡張し,熱電対を構成する2つの素線の物性の差異が周波数応答に及ぼす影響,および感温部の保護や絶縁のために施される被覆が周波数応答に及ぼす影響を明らかにした. 2.周波数領域の相互相関係数(コヒーレンス)を評価規準に用いてセンサ時定数を推定し応答補償する方法を開発した.本手法は,時定数の推定を解析的に表せないという問題があるものの,ノイズに対して高い耐性を示した. 3.これまでに提案した応答補償法(時間領域または周波数領域で時定数を推定し応答補償する4つの方法)の妥当性および信頼性を数値実験により系統的に調べた.具体的には,応答遅れが無視できる線径0.6μmの極細白金線の測定値から一次遅れ応答波形を生成し,これに一定量の白色ノイズを重畳させることで,ノイズが時定数推定および応答補償に及ぼす影響を定量的に評価した. 4.2次元格子(8点×8点)上に配列された細線熱電対群(64組の二線式熱電対)により多点同時測定されたデータに本研究で開発したディジタル応答補償法を適用することにより,高温噴流の温度場が時空間的に変動する様子を可視化することに成功した.
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