研究概要 |
固体高分子形燃料電池(PEMFC)の性能は,セル内の水管理に左右される.水管理の対象となる、ガス拡散層(GDL)や触媒層における水詰りは,ここが微小なポーラス体であり,カーボンを基材にした不透明層であるために、一般に、その観察や測定が難しい。他方,数値シミュレーションによるPEMFC内の水詰りの解明が進んでいる。水詰りに着目した、気液二相流の数値シミュレーションが報告されている。しかしながら、シミュレーションの評価は、実測された電流・電圧特性との比較にとどまり、水詰り、すなわち水滴の体積占有率(飽和率)レベルでの比較は実施されていない。 そこで、GDL内の飽和率を間接的に測定し、その結果を数値計算と比較した。測定では、強制的にGDLにガスを流すインターデジティテッド型セルの,カソード側のガス出・入口間の差圧を介して,GDL内の平均的な飽和率を推算した。数値計算では、Pen大WangらのMMモデルをべ一スに、その定式化を与え計算を実行した。また、計算では、ステップ上に負荷電流を変化させた場合の解析を実施した。 測定結果の、0.5A/cm^2からのセル電圧の著しい低下を,飽和率,及び濃度過電圧と関連付けて説明できた。また、負荷電流密度,加湿温度,あるいは水素・酸素利用率が高いほど,飽和率は高く、これらの運転条件が、GDL内の水詰りを支配すると示された。このような測定結果に対し、実験条件をあわせて、数値計算を実施し、次の結果を得た。I-V特性は、測定結果とよく一致したものの、高電流密度域での濃度過電圧の増大を正確に表現できなかった。GDL内の飽和率は下流に向かって増加した。カソード側の差圧は、実測値と15%以内で一致した。飽和率はオーダーレベルで一致した。 過渡応答の数値計算では、異なる時間オーダーで、セル電圧が複雑に変化することを、輸送現象に起因する4つの時定数で説明することに成功した。
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