研究概要 |
ヒト直立する時の平衡制御をPID制御モデルで記述することが出来た.このモデルの基本的な考えとして,直立姿勢を維持するために筋骨格系から作り出す校正用の力である校正モーメントは身体の偏移角度と比例(比例制御,P制御),偏移角度の変化と比例(微分制御,D制御)および偏移角度の累積と比例(積分制御,I制御)により行われていると仮設した.平衡制御のPID制御モデルとは校正モーメントが比例,微分,積分制御のそれぞれの割合で行い,その重さの係数はそれぞれKp,KdとKiであると定義されている.このPID制御モデルを使用してヒト立位時の身体動揺の様子をシミュレーションにより再現することが可能で,また,身体動揺の周波数特徴も表される.この結果から,ヒトの安静直立時の平衡制御がPID制御モデルによって記述することの優位性を示している.さらに,このモデルを使用して平衡制御の視覚による影響を調べた.結果として,閉眼時のKdの値が有意に下がっていることが判明した.視覚が微分制御器の働きとして,平衡制御における役割が明らかにされた. 直立等身体の姿勢維持において姿勢緊張(Postural Tone)の制御が大きな役割を果たしている。大脳皮質あるいは小脳の損傷の場合には体の筋張力制御の障害をもたらし人間の姿勢維持が不可能になった状況が良く見られる。これまで、姿勢制御のメカニズムとして脊髄反射、錐体外系の働きおよび姿勢反射に帰着され、自律神経機能との関連はまだ未解明である。我々は心拍変動を計測しながらヒト直立時の重心動揺を記録した結果、心拍変動と床圧力中心(Center-of-pressure : COP)との関連性を提示してきた。被験者らはフォースプレートの上に立たせて、心電図計による心拍変動を計測する。同時に、右手の親指と人差し指間の握力もモニターした。1)心拍変動の低い周波数成分(<0.03Hz)に重心動揺と心拍変動との同期現象が現れる。2)右手の親指と人差し指間の握力は計測から5分後に心拍変動と同期した現象が見られる。姿勢緊張は低い周波数で心拍変動と同期し、自律神経活動が姿勢緊張に影響していることを明らかにした。
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