研究概要 |
これまで自動車による歩行者事故においては,高速度(40km/h)における歩行者保護のみが考慮されてきた.本研究ではこれに加えて低速度での歩行者傷害について検討した. 交通事故総合分析センターの事故例データを用いて,低速度の衝突時の歩行者の傷害発生状況を調べた.その結果,低速度であっても路面との衝突による頭部傷害の頻度や,車体との衝突による下肢傷害の頻度が高いことがわかった. 低速度(20km/h以下)での歩行者衝突時の挙動,傷害メカニズムを再現することができる人体マルチボディシミュレーションモデルを作成した.1BOX車など前面形状が平坦な車による歩行者事故では,低速度であっても歩行者が車体前方に投げ出され,路面と衝突することによって傷害が発生することがわかった.特に頭部が路面と衝突した場合には,重篤な傷害につながる可能性がある.また,歩行者事故の事例をシミュレーションにより再現したところ,1BOX車との衝突であっても,歩行者は人体縦軸まわりの回転をともない車体前方に倒れるなど,歩行者は複雑な挙動を示すことがわかった.ミニバンのようにボンネットを持つ車では,頭部よりも腰部から落下する確率が高く,路面との衝突を防止するために有効な形状であることが示された. 低速度での下肢傷害についても検討を行った.レッグフォームインパクタを車体バンパーに打ち出す実車実験を速度を変えて実施した.高速度では同等の傷害値であっても,低速度では大きな差がある場合があった.これらを人体有限要素モデルを用いて速度による下肢の衝撃応答を比較したところ,レッグフォームインパクタで傷害値に差がある場合でも,人体有限要素解析では骨の応力値,膝の曲げ角に大きな差は見られなかった.これらの結果から,低速度の歩行者衝突では,路面との衝突からの頭部保護が最も重要であり,それを防止するために有効な車体形状が存在することが示された。
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