研究概要 |
ネットワークを介した遠隔地間の協調作業においてコミュニケーションを自然・円滑に行うためには,音の到来方向および距離という三次元空間情報を高い自由度をもって制御可能な伝送・再生の実現が重要である.本研究では,ダミーヘッド(等身大の人形)の両耳において録音された信号をヘッドホンによって再生するのに先立ち,個人性を補正する信号処理を施すことで,原音場における空間情報を再現する手法を確立することを目的とした. 上記の目的を達成するために,平成17・18年度にそれぞれ響きの乏しい部屋・豊かな部屋を原音場とする場合を取り上げた.響きは個人性補正項の周波数スペクトルにおけるピーク・ディップとして出現する.ARMA(Auto-Regressive Moving-Average)モデルを適用すると,スペクトルのピーク・ディップは,それぞれz平面上の極・零点で表現されるので,極・零点の数と配置を制御することによって,スペクトルを制御できる.これにより,平成17年度はスペクトルの平滑化を行い,平成18年度はスペクトルにピーク・ディップを付加する手法を提案した.このようにARMAモデルを用いて個人性補正項を調整することの妥当性を検証するために聴取実験を実施した.実験結果として,適切な極/零点の個数を選択することで良好な音質及び音像定位が得られた.以上,両年度の成果と合わせると,任意の原音場について音の空間情報を制御するための個人性補正を行う手法が確立できた. 上記の他に以下2点について研究を行った. (a)遠隔協調作業において音の空間情報を制御することが,話者映像によらず音声単語の聴取能力に向上をもたらすことを示した. (b)音響伝達関数測定システム及びヘッドホン順特性の測定から逆特性の算出まで一貫して行うための可搬型システムをDSPスターターキットを用いて構築した.
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