研究概要 |
現在,種々の制御系の設計・解析では,直感的に性能把握の容易な周波数応答に基づく方法が多用され,産業界においてもほとんどの制御系は周波数応答ベースで設計されている.一方,実際のリアルタイム制御システムではディジタル計算機などを用いるので,制御系の設計・解析は離散時間制御理論を用いる必要がある.そのため,連続時間制御理論で設計した後,双一次変換などによってディジタル再設計する方法などが用いられる.しかしながら,既存のディジタル再設計では,周波数応答を忠実に再現した離散時間伝達関数を得ることが難しい.これに対して,閉ループ伝達関数誤差をノルム規範で表し,ノルム最小化問題に帰着させてディジタル制御器を求める方法,制御器そのものなどの開ループ伝達関数の周波数応答を一致させるようにしてディジタル制御器を求める方法などが知られている.前者は,周波数重み関数を併用すると,得られた制御器が高次元となることが懸念され,後者の方法では離散化された閉ループ制御系の安定性が保証できないなどの問題があった.本研究では,制御器や一巡伝達関数の周波数応答を,連続時間系周波数応答にマッチングさせる形で離散時間制御器を導く方法を開発した.その際,制御器の安定性,閉ループ制御系の安定性の保証については,リヤプノフ方程式を利用して安定性条件を異なる2つのLMIで表記し,2つのLMI条件を交互に繰り返し解くことにより,安定なディジタル制御器を求める手法を開発した.この手法を利用すれば,周波数応答がマッチした離散時間伝達関数を得ることができるため,離散時間系H∞制御のチューニングが,連続時間周波数応答に基づいて行えるなどのメリットがある.以上より,従来見られなかった新しいディジタル再設計手法を構築することができ,制御系設計現場のニーズに応える方法を開発することが出来た. また,ディジタル再設計によって離散化すべき制御器を効果的に設計するための支援理論として,2つの制御系設計・解析の方法を提案した.1つ目の方法は,極の領域を指定可能な拡張H∞制御の設計方法の提案である.この方法は,機械振動系の振動絶縁制御等に効果的であり,実験結果を含めた評価を行った.2番目の方法は,ロバスト制御設計・解析時に問題となっていた,許容変動の見積もり量の保守性を低減したロバスト安定性解析方法の提案である.これらの手法の提案により,所期の目的を達成する制御系設計手法の構築を行うことができた.
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