研究概要 |
土砂生産量を確率的に評価するためには,常時と異常時の土砂生産現象の本質が説明できる物理モデルの構築とその中に含まれる確率変数の評価が重要である.本研究では,代表的な常時異常時の土砂生産として凍結融解作用による土砂生産と斜面崩壊を取り上げ,変数の確率分布を考慮すれば確率的な土砂生産量の予測につながるような物理モデルの構築を行った.まず,凍結融解作用による土砂生産量は,気温,風速,日射などが影響するので,これらをパラメータとした裸地斜面凍結融解モデルを開発した.このモデルの特徴は,気象庁が公表している気象データと斜面方向,斜面角度などの地形データから風化基岩の凍結融解が解析できる点であり,これにより,全国のほとんどの場所で風化基岩の凍結融解過程を推定することができるようになった.このモデルは滋賀県田上山地,や岐阜県高山市高原川流域に適用され,観測値との比較により妥当性が検証された.凍結融解による土砂化のプロセスのモデル化についてはまだ問題点があるが,地球温暖化による気象条件の変化や気象データを確率変数として与えることにより,将来の土砂生産量の推定や土砂生産量の確率的評価が行える.ついで,より詳細な斜面崩壊の評価を目指して,地中の水みちを考慮した斜面崩壊発生プロセスモデルを開発した.このモデルを用いて,水みちの存在の有無や急な閉塞が斜面崩壊の発生に与える影響について明らかにした.また,崩壊発生条件や崩壊規模に及ぼす土質強度の影響についても検討し,粘着力で安定している斜面では,流動性の高い単一崩壊が生じ,内部摩擦角で安定している斜面では段階的崩壊が生じることがわかった.さらに,地球温暖化を考慮して,降雨条件が変化したときの斜面崩壊について,大分県竹田市の斜面スケールの領域や奈良県十津川村の流域スケールの領域に対してシミュレーションを行い,降雨パターンと崩壊形態の関係を見出した.
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