研究概要 |
粘土やシルトを高濃度に含有する高濃度土砂流は,有明海湾奥部の感潮域や黄河下流域の河川,土石流や泥流として観察されている.土砂濃度の高い流れの動力学特性は,清水流とは大きく異なり,粘性や密度が増大すると同時に,乱れの強さ,土砂の濃度分布,流れの抵抗特性および土砂輸送能力が変質することが予想されるが,その流動機構については不明な点が多い. 高濃度土砂流の解釈は研究者により異なる.Bradley & McCutcheon(1985)は,体積濃度が20%以下では密度や粘性への影響が小さい標準的な水流とし,20%以上でその特徴が現れ,特に,粘土やシルトの体積濃度が5%以下の土砂流では非ニュートン流体特性を示すことが指摘されている.土砂濃度以外に粒子の大きさ,形状,粒度分布,土粒子中のミネラル含有量も,高濃度流を特徴付けるパラメータとなる.ミネラルを多く含んだ土砂が流れ込む黄河においては,濃度200kg/m3,体積濃度が約8%以上を高濃度と定義されている.高濃度土砂流の抵抗について,滑面開水路流れでは,中央粒径d50が0.026mmのシルトを用いた実験では土砂濃度の増大に伴って抵抗が減少傾向を示す場合や,逆に粘土を用いたWang(1993)の実験では体積濃度が約9%で若干増大することが報告され,現在の所,粘土やシルトを高濃度に含む土砂流に関しては,体系的な実測データは得られておらず,開水路流れおよび管路流れの何れにおいても濃度の増大に伴って抵抗が増大するか否かについての統一的見解は得られていない.更に,高濃度土砂流においては流れの詳細な実測データを捉えた研究例は少なく,その内部構造については不明な点が多く残されている.そこで本研究は,高濃度土砂流の粘性特性を明らかにした上で,管路,滑面開水路,球状粗度河床開水路,砂堆河床開水路など異なる境界条件における高濃度土砂流の抵抗特性を把握し,PIV(Particle Image Velocimetry)法を用いてその流れ構造の解明を行った.具体的には、高濃度土砂流は非ニュートン流体の粘性特性を有することを明らかにした上で,高濃度土砂流と近似する粘性特性及び抵抗特性を有する高分子剤のPSA水溶液を用いて,滑面,完全粗面及び砂堆河床開水路における高濃度土砂流の抵抗特性とその流動機構について論じた.これらの研究成果は,高分子剤水溶液という模擬流体を用いることにより,従来の土砂を用いた実験などで困難とした計測に対してPIV計測を可能にし,今後の高濃度土砂流の研究に新しい研究手法を提供するとともに,今後の高濃度土砂流を伴う自然災害の予測と防止に大いに活用されることが期待できる.
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