研究概要 |
生物学的リン除去は,閉鎖性水域の富栄養化を防止し,排水からリン資源を回収するための基礎技術として重要視されている。しかし,処理がしばしば不安定化することが知られており,不安定化因子の解明が急務である。そこで本研究は,排水の生物学的リン除去を不安定化する因子として亜硝酸に注目し,リン蓄積細菌の好気的代謝に与える影響を詳細に調べた。 リン蓄積細菌の集積培養は,酢酸を主成分とする人工基質および回分式反応槽3基を用いて行なった。回分式反応槽の運転は,3つの培養法(通常の嫌気-好気法,嫌気-好気の好気工程初期に亜硝酸を添加する方法,および,硝酸を電子受容体とする嫌気。無酸素法)で行ない,異なる無酸素的リン摂取活性を有するリン蓄積細菌の集積培養汚泥を獲得した。得られた3種の集積培養汚泥に対し,回分装置により亜硝酸阻害試験を行ない,亜硝酸の添加量が好気的リン摂取や酸素呼吸,細胞増殖,酢酸摂取に与える影響を調べた。 その結果,酸素呼吸とリン摂取の阻害応答が良く一致し,阻害率が常にほぼ等しいことから,呼吸阻害が好気的リン摂取を阻害している可能性を示した。また,有機物摂取とリン放出は亜硝酸によって影響を受けないことから,リン摂取阻害の主たるメカニズムが呼吸阻害であることを明らかにした。 また,培養されたリン蓄積細菌が亜硝酸を好気的に脱窒することができること,および,その能力が大きいほど亜硝酸阻害を緩和する能力に優れること実験的に明らかにし,その理由が,リン蓄積細菌による好気的亜硝酸脱窒によるものであることを示した。 以上の実験結果をもとに,30数回に及ぶ亜硝酸阻害実験の結果を整理し,リン蓄積細菌の亜硝酸阻害応答を,亜硝酸強度と好気的脱窒速度の大きさで定量的に表現できる方法の提案を行なった。
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