研究概要 |
本研究では,実在の高齢者福祉施設2施設を対象として,電力・ガスのエネルギー消費量や給水・給湯量,室内温熱環境の測定を行うと共に,施設職員や入所者に対するアンケート調査等を実施し,これらの分析を通して,これまでデータの蓄積が少ない同種施設に関する基礎的資料を整理し,施設の運用,管理上の問題点を抽出した。続いて,特に介護入浴に着目し,多様な入浴形態がとられる複数の浴槽を対象に,給水・給湯量に関する詳細な測定と併せて,実際の入浴行為に調査員が立ち会う観察調査を実施した。本研究で得られた成果を以下に示す。 1)エネルギー消費量の分析では,施設職員の省エネルギー的な判断による,空調期間における換気用の外気処理エアコンの間欠運転や,床暖房の停止によって,室内環境悪化の可能性を指摘した。 2)室内温熱環境の分析では,上記省エネ運転による室内環境の悪化を確認すると共に,ケア入所者が倹約のため自室の冷暖房を使用しないことから,共用空間と自室とで大温度差に曝されている事実を示した。 3)給水・給湯量の分析では,1人あたり給湯量が病院施設とほぼ同等であること,給湯量の約1/2を浴室系統が占めるが,実際の入浴時の使用に比べ,湯張や清掃等の使用量が多いこと,さらに循環浴槽の保温用消費熱量が,それら浴室系給湯の消費熱量と同等かそれ以上であることを示した。 4)介護入浴に関する詳細測定では,対象とした各浴槽の中で,1人あたり使用湯量が機械浴槽で最も多く,要介護度の高い高齢者の入浴のため,機器の保温や湯温の調整などを行うためであることを示した。 5)循環浴槽の消費熱量に占める浴槽保温熱量が多いことに着目し,浴槽の使用スケジュール変更によるエネルギー消費削減の方途を検討し,給水温度や浴槽断熱などの諸条件によって最適利用方法は異なるものの,実際の施設を例に,スケジュール変更による熱量削減の可能性について確認した。
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