研究概要 |
マグネシウム基のMg-Ni, Mg-Ni-La系合金では,合金組織をナノ構造化することにより,水素の吸蔵放出速度が著しく向上するとともに,水素吸蔵量やプラトー特性も改善されることが明らかになっている。これらナノ合金中で水素がどのような状態で存在しており,またどのようなプロセスを経て表面から吸蔵・放出されるのか,その機構を解明する目的で研究を行った。 実験は主として水素の熱放出スペクトル(TDS)の測定,並びに高分解能透過電顕観察(HRTEM)により行った。TDS装置は本科研費により作製したものである。HRTEMは名大黒田研究室の協力を得て実施した。試料は溶融急冷法でアモルファス化後,結晶化してナノ構造化したものである。 まず,TDS測定によりa〜dの4種類の水素放出ピークを確認した。ピーク温度の昇温速度依存性や繰り返し吸蔵放出特性などを調べ,各ピークの強度や活性化エネルギーを求めた。その結果,ピークa(〜190℃)はMg_2NiH_4の分解,b(〜210℃)はMgH_2の分解,c(〜240℃)はナノ結晶粒界固溶水素の放出,d(〜340℃)はLaH_3の分解によるものであると同定し,ピーク強度から各水素化物中の水素の存在割合を求めたところ,理論的に予測される比率にほぼ一致していた。 次に,HRTEM観察を水素吸蔵前,水素吸蔵後,水素放出後の各試料について行った。Mg-Ni系では,吸蔵前は5〜10nmサイズのMg及びMg_2Ni結晶粒の存在を格子像や電子回折パターンから確認した。水素吸蔵後はMgH_2やMg_2NiH_4水素化物,並びに約2nm幅の結晶粒界ネットワークが認められた。水素の存在は,EELSスペクトルの水素プラズモンピークとプラズモン像を観察することによって確認した。水素放出後は水素吸蔵前の構造に回復することも確認した。これらの吸蔵-放出サイクルによる結晶粒成長などの構造変化は殆ど見られなかった。Mg-Ni-La系ではLaH3の球形粒子の形成も確認した。 以上のTDSとHRTEMの結果から,これらの合金では,ナノ結晶粒内に水素化物として存在している水素原子は,その放出過程でナノ粒界(アモルファスに近い構造をもつ)を拡散経由して表面に到達し,そこで水素分子として再結合し試料外に放出される,という機構が妥当であることが明らかになった。
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