研究概要 |
Mn-Fe-Ni3成分系酸化物焼結体は,室温〜300℃の比較的高い温度で利用される温度センサの一つであるサーミスタ材料として,家電製品などの広い分野で利用されている.この焼結体を単純な焼成プロセスで作製すると結晶相は,立方晶スピネル型と岩塩型の混在となり,これらの存在割合によって電気的特性が変化した.我々は,立方晶スピネル単一相焼結体が作製できれば,安定した電気的特性が得られるものと考え,本研究においては,上記3成分系における立方晶スピネル単一相領域の探索を行い,さらに単一相焼結体の最適な作製条件を見出すとともに,その電気的特性を評価した.結果として,Mn-Fe-Ni3成分系における1000℃での立方晶スピネル単一相領域は,Mn:Fe:Ni=2.25:0:0.75と0.5:1.5:1を結ぶライン付近に細長く存在していることを見出した.さらに,出発試料をAr中,1400℃で焼結させた後,空気中,1000℃で48時間酸化をともなう熱処理を施すことによって,立方晶スピネル単一相焼結体を作製できることを明らかにした.単一相焼結体の導電率は,温度の上昇にともない指数関数的に増加しており,NTCサーミスタ特性を有していた.さらに,導電率の経時変化の変化率は±1%以内であり,従来の方法で作製した焼結体に比べて安定していることも判明した.移動度の値とその温度依存性から伝導機構は,スモールポーラロンホッピング伝導であると結論付けた.本研究によって得られた成果は,Mn-Fe-Ni3成分系酸化物サーミスタ材料の結晶相と電気的特性に関する研究の発展に寄与するものであるとともに,今後のサーミスタ材料の利用分野の拡大を図る上で重要なものであり,学術的にも工学的にも寄与できるものと確信している.
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