研究概要 |
クラスレート化合物は,ラトリング効果(内包原子の熱振動によるフォノン散乱)により低い熱伝導率κが期待できる。その結果,大きい無次元性能指数ZT=S^2σT/κ(Sゼーベック係数,σ電気伝導率,T温度)が見込まれ,有望な熱電材料とされている。本研究では,その化学組成を含めた結晶構造を設計・制御することにより,クラスレート化合物の熱電性能の向上を試みた。 1.n型材料(カチオン内包クラスレート K_8Ga_8Ge_<38>,Sr_<8-x>Ba_xGa_<16>Ge_<30>) 出力因子S^2σは近似的に<m^*>^<3/2>μ(m^*有効質量,μ移動度)に比例する。規則的な原子配置または少ない電荷補償原子数によりキャリア散乱を減らし移動度μを増大させることや組成変調により電子構造を変化させて有効質量m^*を増大させることを試みた。通常のアルカリ土類金属に代えてアルカリ金属を内包したクラスレートK_8Ga_8Ge_<38>を作製した。その移動度μは期待どおりには増加しなかったが,有効質量m^*が増加した。その結果,室温における<m^*>^<3/2>μならびに出力因子S^2σは,Ba_8Ga_<16>Ge_<30>のそれらよりも大きくなった。また,それぞれ中温度領域と高温度領域で熱電性能が高いSr_8Ga_<16>Ge_<30>とBa_8Ga_<16>Ge_<30>の混晶化を行った。混晶化試料の熱電特性は,混晶割合に応じて系統的な変化を示し,混晶化によって中高温度領域の熱電性能を補完できることがわかった。 2.p型材料(アニオン内包クラスレートSn_<38>Sb_8I_8,Ge_<38>Sb_8I8,Ge_<30>P_<16>Te_8,Si_<30>P_<16>Te_8) クラスレート化合物のp型材料については報告例がほとんどない。本研究では,メカニカルアロイング法を活用することにより,従来方法では困難であった,大きいサイズの試料体を得ることに成功した。ヨウ素あるいはテルルを内包したいくつかの新規材料を合成した。これらアニオン系クラスレートは,カチオン系と同等に低い熱伝導率を示した。それに加えて,テルル内包系Ge_<30>P_<16>Te_8およびSi_<30>P_<16>Te_8は,p型伝導性を示した。それらに対してキャリア密度増加のために組成制御したところ,Si_<30>P_<16>Te_8では無次元性能指数ZTが最大で0.45に達した。
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