研究概要 |
本研究は室温で動作する強磁性誘電体薄膜の物質開発,またシリコンデバイステクノロジへの応用を目指した機能性の発現とデバイスデザインを行うこと目標として,PLD法による磁性誘電体薄膜合成および室温強磁性の発現,誘電特性の最適化に取り組み次のような成果を得た. 1.Ba(Fe, Zr)O_<3-δ>磁性誘電体単結晶薄膜における室温強磁性と高い絶縁性 従来の研究で磁性誘電体応用の可能性が示唆されたBaFeO_3系ペロブスカイト単結晶薄膜について,FeイオンをZrで置換することによる特性の改善を試みた.その結果,Zr置換量が0.7-0.8の領域において大きな強磁性秩序が得られること,またリーク特性が4桁以上改善されることを見出した.また,磁気モーメントの大きさは製膜条件に強く依存しており,強磁性磁気秩序の起源解明を進めたところ,Zr置換量の増大とともに,Feイオンの価数状態が3価から4価へと変化し,かっそれらが局所的に集積した結果生じたものであることが解った.また,リーク特性の改善についてもFeイオンの価数状態の変化が影響していることを明らかにした. 2.Ba(Co, Mn)O_3単結晶薄膜の合成と室温強磁性の発現 Co及びMnイオンのサイト制御を試みることによって,強磁性磁気秩序と誘電性を兼ね備えた薄膜の合成を試みた.その結果,この物質はバルク状態では50K以下の低温域でのみ強磁性絶縁体であったものが,薄膜状態では室温まで磁気秩序が維持されることを明らかにした.一方で,電気特性についてはバルク,薄膜とも50K付近で絶縁体転移を示し,室温では半導体であり更なる特性の改善が必要であることがわかった. 以上の結果はイオン配列状態の制御により,室温で動作する磁性誘電体薄膜の合成に成功したことを示唆しており,現在更なる取組みとしてSi基板上へのエピタキシャル成長や強誘電秩序の発現に向けた検討を進めている.
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