研究概要 |
本研究では,低合金TRIP鋼に熱間鍛造とオーステンパー処理を組み合わせた新しい加工熱処理技術「鍛造熱処理」を施し,組織の極微細化とγ_RのTRIP効果を組み合わせることにより,従来の非調質鋼を上回る強靭性をもつ新しいタイプのTRIP型非調質鋼を開発した.さらに,これら機械的性質とγ_R特性との関係を考察したさらに,そのTBF鋼の疲労強度特性(切欠疲労強度を含む),遅れ破壊強度特性も調査した.得られた主要な結果を以下にまとめる. (1)基本鋼(0.2%C-1.5%Si-1.5%Mn)の小型試験片において,800〜900℃での熱間鍛造と約400℃でのオーステンパー処理(γ域鍛造熱処理)により,TBF鋼の衝撃値は著しく改善された.伸びも大きく改善された.AlとNbの複合添加鋼により,強靭性はさらに改善され,SCM440鋼を上回った.大型試験片においても,実用レベルの高い強靭性を得ることに成功した.これらの結果には主に,Al添加による残留オーステナイトの安定性の増加と,Nb添加による組織微細化が貢献した. (2)TBF基本鋼の平滑材において,引張強さに対する疲労限の比(FL/TS)はオーステンパー処理温度が400℃付近において最も高くなった.TBF鋼はマルテンサイト鋼に比較して高い切欠疲労強度と低い切欠感受性を示した.Al-Nb-Moの複合添加により,切欠疲労強度はさらに高く,切欠感受性はさらに低くできた.これは複合添加により,母相組織が微細化され,疲労き裂の発生と進展が効果的に抑制されたことに起因した. (3)TBF基本鋼はマルテンサイト鋼より優れた耐遅れ破壊特性を有した.0.5%Alの添加または0.02%Nb-0.1%Mo複合添加はさらに高い遅れ破壊強度を達成した.一方,2.5%Mn添加鋼では,遅れ破壊強度は著しく低下した.Al添加は残留γの安定性を高め,残留γへの水素の吸蔵を促進し,粒界破壊と擬へき開破壊を防ぐ効果があると予想された.Nb-Mo複合添加は旧オーステナイト粒径を小さくし,単位粒界面積当りの固溶水素量を低下させ,粒界破壊を抑制した.
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