研究概要 |
本研究では、マクロ環化合物のカリックスアレーンを用いた新しい不斉有機触媒の開発を目的とし、カリックスアレーンに官能基群を非円対称状に導入する不斉構築法とその触媒機能について検討した。まず、K. Noらの多段階合成法により、置換基の異なるフェノールニ量体(2-(5-メトキシサリチル)-4-tert-ブチルフェノールと3-(3-ヒ ドロキシメチル。5-フェニルサリチル)-5-フェニル-2-ヒドロキシベンジルアルコール)の縮合反応より4員環の不斉カリックス[4]アレーン(5-tert-ブチル-11-メチル-17,23-ジフェニル-25,26,27,28-テトラヒドロキシカリックス[4]アレーン)をラセミ体として得た。また、エナンチオマー基質として、Z-D(L)-アミノ酸とp-ニトロフェニルをDCCを用いて縮合し、アミノ酸エステル(Z-D(L)-Ala-PNP、Z-D(L)-Trp-PNP)を合成した。これらの合成物は、元素分析、比旋光度測定、IR、NMRスペクトル測定を行い目的物であることを確認した。得られた不斉カリックス[4]アレーンとZ-D(L)-Trp-PNP基質を用い、N-ベンジルオキシカルボニル-L-フェニルアラニン共存下で加水分解反応を観測したところ、不斉カリックス[4]アレーンの添加により反応速度が低下する傾向が見られた。とくに、L体基質に比べてD体基質の反応速度が低下する傾向が観測され、カリックスアレーンによる不斉選択的反応阻害の可能性が示唆された。さらに、コンピュータモデリング(分子力場計算)の結果からは、不斉カリックス[4]アレーンが"cone"型のコンボメーションを形成していることが示唆された。おそらく、不斉カリックス[4]アレーンは、その空洞にZ-D(L)-Trp-PNP基質を取り込み、基質の反応部位を遮蔽することによって加水分解反応の阻害作用(負の触媒作用)を示したと考えられる。さらに、基質の取り込みに際し、カリックスアレーンの非円対称な置換基により発生した不斉環境が、Z-D(L)-Trp-PNPのキラルな分子構造を認識して不斉選択性を発現した可能性が考えられる。
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