研究概要 |
フタモンアシナガバチの卵識別メカニズムについてGC-MSを用いて科学的に分析を行った。Dufour腺は1時間、卵は30分間抽出した。体表物質はヘキサンを体にかけて洗い流した。使用したカラムはHP-5MS、昇温プログラムは150℃2分→7℃/分→320℃5分とした。いずれのサンプルからも多くの炭化水素が検出された。Dufour腺と卵には多くの物質が共通していた。特によく共通していた物質は、次の7種類であった;(1)2-MeC_<28>、(2)n-C_<29>、(3)11-,13-,15-MeC_<29>(4)11-,13-,15-MeC_<31>、(5)11-,13-,15-MeC_<33>、(6)13-,15-,17-MeC_<35>、(7)13-,19-diMeC_<35>。これらの物質は体表成分からも抽出された。 コアシナガバチは、女王の存在下でも、ワーカーが卵巣を発達させることが知られている。長野県の個体群を調査した結果を用いて、(1)女王の存在下でも、受精したワーカーが存在すること、(2)受精ワーカーは、女王の存在下では卵巣の発達が抑制され、産卵は生理的に不能であること、(3)女王が消失すると受精ワーカーが女王の地位を占めること、(4)元の女王が消失した孤児巣のコロニーサイズは、女王の存在するコロニーサイズと有意な差がないこと、が明らかとなった。また、孤児巣のコロニーサイズが女王の存在するコロニーサイズと有意な差がなかったことは、受精ワーカーが女王として正常に機能し、コロニーが正常に発育していることを示唆していた。また、巣内のブルードのDNA分析を行った結果、複数の家系の子孫が混在するコロニーが存在し、このことは女王の複数回交尾や女王の交代が普通に起きていることを示唆していた。以上のことは、早期羽化オスがワーカーの交尾相手として有効であることを示唆している。
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