研究概要 |
植物が行う光合成において、集められた光エネルギーは直列に並ぶ2つの光化学系により化学エネルギーへと変換される。このとき、光合成反応を最適に行うためには、光化学系Iと光化学系IIの励起のバランスをとらなければならない。このとき、光化学系IとIIの量比そのものは変えず、両光化学系の集光能力を瞬時に最適化する仕組みとしてステート遷移が知られている。本研究ではこのステート遷移能力が特に発達している緑藻クラミドモナスを研究材料に用いて、光化学系IとIIの巨大タンパク質複合体を調べることで、その分子基盤を解析した。その結果、これまで光化学系IIに固定されていると考えられていた3種類のクロロフィル結合タンパク質(CP26,CP29,LhcbM5)が、光化学系Iに結合した状態の超複合体を確認し、これら3種のクロロフィル結合タンパク質が2つの光化学系間を移動していることが示唆された。また、その検証として、3種類のクロロフィル結合タンパク質結合/非結合の光化学系I超複合体における励起エネルギー移動を比較した。蛍光スペクトルのピコ秒時間分解解析より、移動してきたクロロフィル結合タンパク質に光化学系Iがエネルギーを渡していること、100ps以降の遅い時間領域では逆に移動してきたクロロフィル結合タンパク質から光化学系Iにエネルギーが渡されることが明らかとなった。これらの結果から、光化学系I複合体と3種のクロロフィル結合タンパク質との間でエネルギーの受け渡しが行われていることが示された。また、光環境適応機構の生理学的な解析を、さまざまな変異株を用い偏調蛍光光度計を用いて調べた。その結果、明期では高エネルギー依存の蛍光消光が、暗期を継続すると、葉緑体呼吸に依存したステート遷移による蛍光消光が誘導されることが明らかとなった。
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