研究概要 |
多様な棲息環境に適応して繁栄している爬虫類の有鱗目動物は、卵生や胎生、性染色体依存性性決定や温度依存性性決定などのように、多様な生殖現象を示している。このような多様性は脊椎動物の生殖現象の進化を考える上で極めて重要な糸口を提供してくれると思われる。しかし、有鱗目には適切なモデル動物がおらず、このような面白い現象を支えている分子機構については殆ど研究されてこなかった。ヒョウモントカゲモドキ(leopard gecko, Eublepharis macularius,)は比較的に馴れやすく、実験室環境での飼育管理も可能であると思われる。このことから本研究ではこの有鱗目動物の飼育管理法を確保すると共に、その生殖現象の研究に必要な遺伝子を同定すると共に、それら遺伝子の発現に及ぼす環境温度の影響を調べた。 先ず、本研究に必要な性分化関連遺伝子として、P450scc、P450arom、女性ホルモン受容体、そしてSF-1などのcDNAを同定した。そして引き続き、定量PCR系を確立し、孵卵中の温度がこれらの遺伝子のmRNAの発現に及ぼす影響を詳しく解析した。その結果、孵化直後の個体ではP450aromとSF-1の発現に性差は認められた。一方温度依存性性決定が起こる時期でのこの両遺伝子の発現は生殖腺のみならず脳でも強く検出された。なお、この時期を含む発生段階での脳と生殖腺では、4種類の性ステロイドホルモン受容体mRNAの発現も検出していることも確認できた。このような結果は、発生中のヒョウモントカゲモドキの脳には生殖腺から独立した性ステロイドホルモン情報伝達系が備えられていることを強く示唆するものである。
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