研究課題
基盤研究(C)
ヒドラの散在神経系について、その構造(神経解剖学)・機能(神経生理学、行動生理学)・形成(発生神経生物学)の全ての側面について、また、これらを分子レベルから個体レベルまで、総合的に追究した。その結果、この神経系の興味深い側面が明らかになった。中でも特筆すべき結果は、私達が同定したヒドラの神経分化に関連するペプチド分子が、幹細胞の神経細胞分化の決定(それに続く神経前駆細胞の形成)に効くことが判明したことである。すなわち、幹細胞の最初の運命決定の過程に作用するという非常に興味深い結果である。また、私達が中枢神経系の原型ではないかと仮説しているヒドラの頭部に見られる神経環の機能がひとつ判明した。それは、全ての触手を同調して動かす行動であった。クラゲなどでも神経環は、電気的に結合した巨大軸索的な機能と、化学シナプスによる情報統合の機能の2つが考えられていて、今回の場合は、前者にあたるものであった。さらに、この神経環の電子顕微鏡レベルの観察に成功した。それは、約30本の有芯小胞を沢山含む神経線維の束であった。この神経環内の神経結合(シナプス)の詳細を検討中である。さらに、散在神経系の機能に関連して、組織レベルで散在神経網でも方向性をもった興奮の伝達を見ることができた。更に、ヒドラの散在神経系は、哺乳類などで知られている消化管の消化運動(食道反射、ぜんどう運動、脱糞反射)と同じ運動を示し、腸管神経系と散在神経系の構造的、機能的類似点が明らかになった。また、ヒドラの神経網の化学解剖学を多重染色法なども取り入れながら、詳細な解剖図を作成している。定量的な評価も行い、既に、全神経細胞の3割近くは抗体により可視化できていることも判明、また、散在神経系においても内胚葉と外胚葉の神経網の表現型は著しく異なることも判明した。
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