研究概要 |
DYRK(Dual-specificity tYrosine-phosphorylation Regulated protein Kinase)は互いに類似したキナーゼドメインを持つ複数のメンバーからなり、ヒトではDYRK1A, DYRK1B, DYRK2,DYRK3,DYRK4の5つのキナーゼを含む。DYRKsはDrosophilaのMinibrainと高い相同性を持ち、またDYRK1Aはヒトクロモソーム21番目にコードされ、その異常がダウン症候群の多彩な症状の原因の一つと考えられている。これらのことから、DYRKは神経細胞をはじめとする細胞の分化・増殖に重要な役割を持つと推察される。本研究ではDYRKsと細胞内で結合するタンパク質を単離・同定し、その生理的意義について解析した。分子量90,70,及び50kDaの細胞内タンパク質がDYRK1B及びDYRK4とのみ特異的に結合しており、そのほかのDYRKsとは結合していなかった。これらのタンパク質は分子シャペロン Hsp90,Hsp70,Cdc37と同定された。GFP融合タンパク質として発現したDYRKsの細胞内局在の解析の結果、DYRK1A及びDYRK1Bは核に、DYRK2,DYRK3,DYRK4は主に細胞質に存在していた。細胞をHsp90の特異的な阻害剤ゲルダナマイシンで処理するとDYRK1B及びDYRK4とHsp90の結合は解離したが、Hsp70の結合は不変だった。Hsp90の分子シャペロン活性の阻害によりDYRK1B及びDYRK4の細胞内局在は大きな影響を受け、速やかに細胞質にドット状のアグリゲートを形成した。DYRK1A, DYRK2,DYRK3の細胞内局在はHsp90阻害の影響を受けなかった。このことは、Hsp90の分子シャペロン活性がこれらのターゲットキナーゼの細胞内でのタンパク質凝集の阻害に必須であることを示している。Hsp90活性の長時間の阻害により細胞内のDYRK1B及びDYRK4の存在量は著しく減少したが、それ以外のDYRKsの存在量には影響が無かった。DYRK1B及びDYRK4は細胞内で特異的にユビキチン化されており、ユビキチン化されたDYRK1B・DYRK4の蓄積は細胞をプロテアソーム阻害剤で処理することで更に増大した。以上の結果から、Hsp90及びCdd37が同じファミリーに属する類似のキナーゼ群の中から特定のメンバーを識別して複合体を形成し得ること、またHsp90及びCdc37の分子シャペロン活性がこれらのクライアントキナーゼの細胞内での溶解性と安定性に必須であることが明らかになった。
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